読書記録
23
2004/12/24
『私の脳科学講義』 著:利根川進
2001 岩波新書 185P
抗体の多様性についての免疫学でノーベル賞を受賞している、現在の脳科学第一人者。
彼の人生哲学にはなかなか賛同できるものがありますが、
しかしどうにもうにも極端過ぎというくらいに自然科学絶対万能主義者。
そもそも私が自然科学をそれほど明晰明確明瞭なものと思っていないからかもしれませんが、
すべての人文系の学問は曖昧でいずれ時間はかかるだろうけれども脳科学で解明されることになる、
などといった誇大妄想にはさすがについていけません。
接近し包含されることがあろうとも、水と油のように絶対に混ざり合って溶けてしまわないようなものでしょう。
それに、クオリア問題は脳科学の正攻法では確実に解決不可能な問題ですからね、
量子力学の波動収束同様で同様。
しかし、諸学問が脳科学に接近すべきという考えは私も持っていて、これは是非勧めたいものです。
推奨度
★★★★
見出し
私の歩んだ道 分子生物学者になりたい 分子生物学との出会い 日本では研究ができない サンディエゴへ留学 UCSDで
ソーク研究所 ダルベッコ研究室で学んだこと 免疫学上の大ミステリーを解く バーゼル免疫学研究所へ 抗体の多様性
GODのミステリー ダーウィン進化論との相似 MITで脳研究をはじめる 新天地で新しいテーマに取り組みたい 脳から心を解明したい
脳科学の現在と可能性 人間は脳によって生物界を支配している 生物学の中で遅れをとってきた脳研究 脳を生物学的に解明する
人間の脳とコンピュータの違い 脳ネットワークの臨界期 知性や感性にも臨界期はあるか 「見る」ことの不思議なメカニズム
学習と記憶のメカニズムを探る わたしたちの研究戦術 まず、グローバルノックアウトから 部位局限ノックアウトマウス
発現レベルを調べる方法 長期増強は記憶の基盤か? CA1野のNMDA受容体をノックアウト
ノックアウトマウスは長期増強がおこりにくい モリス水迷路 ノックアウトマウスは空間記憶がえられない 空間情報と場所ニューロン
ノックアウトマウスでは場所ニューロンができない CA3野の機能を調べる 反回性経路のはたらき 記憶の想起 CA3野ノックアウトマウス
パターンコンプリケーション能力 場所ニューロンの活性化に欠陥 将来への展望 科学者とは、科学研究とは
プライオリティの判断が大切 独自のストラテジーをもつ 記憶を再生するメカニズムが見えてきた 自分の力で正当に評価されて生きる
日常生活から見た脳 人間の脳とコンピュータのちがい 人間の人間たるゆえんとは 科学の意義について
興味や好奇心が脳を活性化させる すべての学問は脳科学に吸収されるか 現代における先端科学のとらえ方
教育に対して脳科学ができること 脳を刺激することで若さが保てる
2004/12/22
『マニ教とゾロアスター教』 著:山本由美子
1998 山川出版社世界史リブレット 82P
定評のある世界史リブレットの中の一編というだけあって、堅実な出来具合です。
深い思想面的なところはなるべく避けて、成立やその推移、そして衰退を活き活きと描いています。
ここから興味を持った人はもっと突っ込んだ本を読んでいきましょう、といった形です。
どちらかというとマニ教中心で、ゾロアスター教はマニ教の前史や比較対象としてあらわれてきます。
私の好きなものというか思想の根幹には、ヘレニズム思想とグノーシス思想がありまして、
これらと密着しているのがこのイランの思想なのです。
普段はなかなかにとっつきにくいものでしょうが、この簡易で軽めの一冊を機に色々と触れてみてはいかがでしょう。
推奨度
★★★★
大見出し
消えた宗教と生き残った宗教 イラン人の信仰と世界観 マニ教の成立と信仰の特色 サーサーン朝におけるゾロアスター教正統の確立
マニ教の発展と消滅
2004/12/21
『歴史地図で読み解く三国志』 著:武光誠
2003 青春出版社 216P
地図や図表を多く用いてもいますが、表題は三国志と三国志演義の差異について、
とか何とかいう副題を付け足した方がより最適なものかと思いました。
推奨度
★★★★
見出し
「三国志」世界ができるまで 「三国志」の魅力 「三国志」の虚実 『三国志演義』ができるまで 中国史上の転換期
「象徴皇帝制」がつくられなかった中国 曹操の統治を歓迎した豪族 幼帝がつづく後漢朝 桓帝・霊帝時代 後漢朝滅亡をもたらした政争
儒教王国後漢朝の最期 後退する漢民族 秦漢帝国と中華思想 匈奴を恐れた中国民族 鮮卑と烏桓 西域諸国との交流
三国時代の異民族問題 三国争乱と日本 海のはてからの使者 「倭国大乱」の時代 邪馬台国と魏朝 豪族支配下の戦闘と国内支配
三国時代の中国の地理 皇帝と官僚 「三国志」の時代の戦い 豪族優位の社会 劉備の苦悩 桃園の義 皆殺しにされた宦官
董卓討伐軍 徐州攻防戦 曹操との対立 さすらいの劉備 三国対決の時代へ 軍師、孔明登場 赤壁の戦いと孔明 益州を得た劉備
関羽落命とその後 五丈原の悲劇 地図でみる歴史の分かれ目となった戦い 官渡の戦いにおける袁紹の失敗
孔明がいなかった赤壁の戦い 蜀の後退を決定づけた夷陵の戦い 五丈原の戦い 「三国志」の主要な登場人物の実像 信義の人、劉備
神となった関羽 愛すべき豪傑、張飛 政治家としての孔明 新しい時代をひらいた曹操 三国争乱がもたらしたもの 貴族制の時代へ
対外積極策をとる三国 「三国志」の物語ができるまで
2004/12/19
『東インド会社 巨大商業資本の盛衰』 著:浅田實
1989 講談社現代新書 226P
コンパクトなサイズながら、実に見事にまとまっている良著。
何よりもしっかり裏付けのとれた数値データをかなりの量網羅しているのが素晴らしいです。
史上初の内閣首相となったウォルポールが、如何にしてその地位にのぼりつめたかは、
South Sea Bubbleと密接な関係があり、それを事細かく論じているのも高評価。
東インド会社について調べようと思ったら、まずこの一冊。
推奨度
★★★★
大見出し
東方への誘惑 相次ぐ東インド会社の設立 キャラコの輸入と重商主義 巨大株式会社 南海会社 南海景気と恐慌
茶の輸入と中国貿易の開始 ネイボッブの時代 商事会社から植民地支配者へ 東インド会社の解散
2004/12/18
『ヨーロッパ国際体系の史的展開』 編:臼井実稲子
2000 南窓社 236P
とっても一般向けではないのでお奨めはそれほどまでにしませんが、しかし内容の充実度は高いです。
このように一つの著作に論文集の形としてまとまっているものは稀有なので、その意味でも貴重です。
ドイツ第二帝国外交史が専門の人がいるようで、特別クローズアップされています。
バランス・オブ・パワーの概念や安全保障体制について詳しく視たい人は、こちらをどうぞ。
推奨度
★★★★
見出し
ヨーロッパ国際政治システムの形成と展開 近代世界システムの誕生と発展 近代世界システムの特徴
中世普遍的世界の動揺/危機/解体 パワー・ポリティクスの自由放任時代 ヨーロッパ協調の時代
ヨーロッパ国際政治におけるドイツ外交 19世紀中葉のドイツ問題 プロイセンの対外政策 ドイツ帝国の成立 ビスマルクの外交政策
ヴィルヘルム時代のドイツ外交 戦間期国際システム 国家主権の概念 国際法の原則 勢力均衡の政治 近代ヨーロッパ国際システム
戦間期国際システム 戦間期国際システムの崩壊 ヨーロッパ国際政治システムの変容 冷戦と安全保障秩序の再構築
ヨーロッパにおける冷戦 ヨーロッパ協調の模索 米英関係と大西洋協調 朝鮮戦争とヨーロッパ ヨーロッパ防衛構想 NATOの戦略概念
ヨーロッパの「55年体制」 ヨーロッパ分断の暫定的受容 ベルリンの壁構築と新しい時代の始まり 東西関係の枠組みの変化
ヨーロッパによる限定的多角化 ドイツ問題の暫定的解決 デタントと「新冷戦」の時代 欧州デタントの開始 デタントの変容と失速
「新冷戦」と東西欧州 脱冷戦の時代へ 冷戦後半期の欧州国際政治 変動の10年 冷戦の終焉 欧州安全保障秩序の模索
ヨーロッパの再編 21世紀にむけて
2004/12/16
『20世紀言語学入門 現代思想の原点』 著:加賀野井秀一
1995 講談社現代新書 227P
今のところ一番お薦めできる、ある程度の質を保った言語学の簡易網羅書がこちら。
加賀野井氏はしかし専門じゃない日本語論の著作の方が面白いものを書きますね。
やっぱり一歩専門から脚をひいた所にいた方が、読み物としては面白いものが書けるというものでしょうか。
さて、内容ですが、大方の点については特に問題も無いのですが、自身も指摘している通り、
ブルームフィールドについては矮小化し過ぎている感があります。
彼は意味論のところに於いて今一度取り上げ直されるべき言語学者であり、
そこに言及していないのがかなりの失点でしょう。
そのことさえ念頭に置いておけば、面白く学べるものです。
推奨度
★★★★★
大見出し
「言語と思考」から「言語の思考」へ ソシュール─最初の衝撃 構造言語学の誕生 アメリカの構造言語学 構造主義という知の炸裂
記号論の展開 生成する言語学 開かれた言語学を求めて
2004/12/15
『ヒストリカル・ガイド イギリス 【改訂新版】』 著:今井宏
2000 山川出版社 269P
通史の出来具合に定評のあるヒストリカル・ガイドシリーズ。
やっぱり本書も安心して読めます。
末尾の方の、ミレニアムを迎えて果たして今後のブレアのイギリスはどうなっていくのか、といったくだり。
アメリカと負の遺産のせいで、大変な迷路にまたまたはまりこんでしまった模様ですよ。
推奨度
★★★★
見出し
イギリス史のキー・ワード 「イギリス」という呼称 イギリスは「島国」か 「民族複合国家」イギリス 「議会政治」の母国
「近代化の典型」としてのイギリス 「ジェントルマンの国」イギリス 古代から中世へ ケルト系民族の渡来 ローマ時代のブリテン
ゲルマン民族の移動 アングロ=サクソン統一王国の形成とキリスト教 ヴァイキングの襲来 カヌートの「北海帝国」 大陸国家イギリス
ノルマン人の征服 「ノルマン人の征服」がもたらしたもの 集権的封建国家の出現 ノルマン朝の最後 「アンジュー帝国」の成立
「マグナ・カルタ」と議会の登場 「マグナ・カルタ」の制定事情 「マグナ・カルタ」の性格 議会の登場 二院制の成立 島国への回帰
ウェールズ・アイルランドへの勢力拡張 スコットランドの抵抗 「百年戦争」の意味するもの 1381年の農民一揆 イングランド社会の変質
バラ戦争から絶対王政へ 国家的統合の進展 テューダー朝のはじまり イングランド宗教改革 修道院の解散 国教会の動揺
カトリック反動 「中道」の教会体制 「無敵艦隊」撃破 エリザベス時代の光りと影 イギリス革命 ステュアート朝の成立
甦る「マグナ・カルタ」 議会による改革と内乱の展開 革命陣営の分裂・抗争 共和政から軍事独裁政権へ 王政復古後の混乱
名誉革命への道 イギリス革命の打ち立てたもの 植民地帝国の形成 「土地を持つもの」の支配 「イギリス商業革命」
名誉革命防衛戦争の展開 「ヨーロッパにおいてインドを獲得する」 第一次植民地帝国の形成 「学ぶ」立場から「学ばれる」模範へ
「二重革命」の時代 「産業革命」という概念 「最初の工業国家」の誕生 「キャプテン・オブ・インダストリ」の性格 急進主義運動の展開
反動的風潮の高まり バークの教えたもの 「改革の時代」へ 「改革」と「工業化」の進展 第一次選挙法改正 選挙法改正の性格
「改革の時代」の到来 チャーティスト運動と穀物砲廃止 「世界の工場」 ジェントルマンの支配 「自由貿易帝国主義」の展開
議会改革の推進 帝国主義の時代 帝国主義時代の到来 ディズレーリの帝国主義外交 対抗するグラッドストン アイルランド問題
議会制民主主義の成熟 「社会帝国主義」政策の展開 世紀末のイギリス 第一次世界大戦前夜のイギリス 二つの世界大戦
第一次世界大戦の勃発 王室改革 総力戦下の国民と帝国 第一次世界大戦直後の変動 労働党の躍進と自由道の没落
世界恐慌の影響 ファシズムとの対決 第二次世界大戦 第二次世界大戦の終結 戦後のイギリス 労働党政権の成立
チャーチル再登場 保守党政権下のイギリス ウィルソン労働党政権 70年代のイギリス サッチャーの登場 サッチャー以後のイギリス
2004/12/13
『ヤルタ会談と鉄のカーテン 何が東欧の運命を決めたのか』 著:小沢弘明
1991 岩波ブックレット 62P
とても出版された時代を感じますね。
まさかこの直後にソ連が崩壊するとは著者は予測し得ていたでしょうか。
内容もやはり少々古くささを禁じ得ませんが、以前記した、
『ヨーロッパ分断1943』と併せて読むと中欧という概念の重要性が一層際立ってくるかと思います。
推奨度
★★★
大見出し
はじめに─シチェチンとトリエステ 冷たい戦争の「起源」─大連合の矛盾とヤルタの妥協 民衆の戦後を求めて─東欧内部の戦後構想
人民の民主主義─戦後復興と「新しい道」 岐路に立たされた東欧─鉄のカーテンの内と外
2004/12/12
『歴史意識の芽生えと歴史記述の始まり』 著:蔀勇造
2004 山川出版社世界史リブレット 89P
読んでいてとても面白い、といった類のものではありませんが、
読んでほほぅなるほど、と知識をつけるためにはなかなかに役に立つでしょう、というような本です。
歴史意識の地域ごとの差異なんていうのは、それこそ史学でも学ばないとやらないでしょうからね。
差異があることすら知られていない場合も多々なので、興味ある人は、短いですし、一読あれ。
推奨度
★★★★
大見出し
記憶と歴史 「歴史」と時間意識 メソポタミアとエジプト イスラエルとギリシア 中国人の歴史意識
2004/12/11
『イギリス名宰相物語』 著:小林章夫
1999 講談社現代新書 220P
前作の王室物語に比べたら、政治やるのが仕事の人達なのでやっぱり政治面にそこそこ言及はしていますが、
それでも主には私生活に関してのことが書かれています。
いやはやそれにしてもグラッドストンのことは初めて知りましたよ。
まだまだ知らないことがたくさんあって、知識不足が嘆かわしいです、日々精進ですね。
推奨度
★★★★
見出し
ウォルポール─平和を貫いた男の現実主義 イギリスの繁栄と自由を生みだした 平凡こそがもっとも非凡 一番の問題は結婚した相手
筆頭女官に気に入られる 敗北と失意の時代 妻のスキャンダル 株式ブーム バブルの崩壊 派手なことはしない
バブルがはじけたあとの国民感情 危険な綱渡り 文芸保護はろくなことがない ウォルポール失脚 有益なる怠慢
ピット─イギリス帰りの家から生まれた首相たち 親子二代の首相 ダイアモンド・ピット 「ネイボッブ」というインド成金
大ピットの得意は戦争 連立政権の片棒 大酒のみの小ピット 独立独歩を決めこむ 24歳で首相に インドが出世の糸口 ピット家の伝統
成り上がりが尊敬を得る ウェリントン公爵─戦争の英雄から首相へ 19世紀はイギリスの時代 名将必ずしも名首相ならず
ネルソンの恋 冷徹に過ぎる指揮官 ワーテルローの前夜 ワーテルローの後日談 とんでもない国王の離婚騒動 英雄の泣き言
選挙法改正をめぐる失敗 台所内閣が問題 「イギリスらしさ」の権化 ディズレイリ─ユダヤ人の首相 文人宰相の苦悩
血の気の多いユダヤ人 山師の才能 目立ちたがりの男? 完璧な妻 スエズ運河の獲得 ロスチャイルドとの結びつき
小説家ディズレイリ 政治的主張を小説で書く 印税交渉にも細かい いったいなぜ小説を書いたのか 王は正しき言をおこなうものを愛す
グラッドストン─娼婦が大好きな精力家 古典的自由主義者 性欲の処理に苦慮 スコットランドの血 福音主義の家庭に育つ
保守党の若きエース リスペクタブルな暮らし 会社経営の失敗 救援活動という名の性欲処理 元気はつらつとした老人
とどまるところを知らぬエネルギー ロイド・ジョージ─ウェールズが生んだ首相 貧しい境遇から首相へ 忘れられた国ウェールズ
弁護士として生きる ウェールズの代表 ボーア戦争の混乱の中で アイルランド問題への関わり 上流階級をねらい撃ちした人民予算
置き去りにしたら100万ポンド すぐれった戦争指導者 チャーチル、そしてその後 政治家に必要なもの 二度の戦争
栄光の過去を夢見させる 演説の魅力 国葬で送られた首相 鉄の女の政治姿勢 元気で長生き